2025年4月 第19回 陰陽道史研究の会 記録
日時:2025年4月19日(土)
於:大東文化大学大東文化会館
■室田辰雄「文肝抄の基礎研究」
鎌倉後期、賀茂在親流の官人陰陽師、賀茂在材が編纂した陰陽道祭祀書『文肝抄』について、諸本の比較検討を行った。諸本とは歴彩館所蔵若杉家文書、宮内庁書陵部所蔵土御門家文書である。
両書を比較、検討した結果、先行研究とおり土御門家文書は若杉家文書を書写したものである。また土御門家文書本は、宝永二年に、土御門泰福が書写したものであり、泰福が書き込んだと思われる注などが確認できる。そこから天社神道への影響を与えた可能性を提案した。また、泰福はこの「文肝抄」をどのように読解したか、「小兒祭」の先祖霊を安倍大明神と解釈していたことから、安倍家伝来のテキストとして読んでいた可能性を示唆した。
■遠藤純一郎「外宮高宮に祀られた八十一枚の鏡」
『元応二年高宮御事』の記事によると、外宮高宮には八十一枚の鏡が祀られていたという。
同書では、その構成についておよそ四種の理解を示しているのだが、このうち「別宮七星加二星、九星也。豊受太神月輪也。天七十二星也云々。都合八十一星」とする組み合わせに、陰陽道の「七十二星鎮」、また密教の「安鎮法」の影響を窺うことができる。
本報告では、神道思想の内で密教・陰陽道が親しく接合する様子を明らかにし、中世思想の複合性の一端を考察した。なおこの報告は「度会常昌と慈遍(その1)」(『蓮花寺佛教研究所紀要』第十八号所収)に基づいており、詳細は拙論を参照いただきたい。
■小田 真裕「2025年からの暦・陰陽道研究のために―日本近世史・地域史研究の視点から―」
陰陽道・陰陽師・暦などに関心はあるが、研究対象の中心にはしていないような研究者や学生。そして、展示や書籍等を通じてそれらの分野への関心を強めた市民。彼・彼女たちに、2025年以降も末長く陰陽道・陰陽師・暦といったテーマに関心を持ってもらうにはどうすれば良いか。本報告では、そのための方途を考えようとした。
前半では、報告者が参加した共同研究の成果報告(『国立歴史民俗博物館研究報告』247、2024年3月、国立歴史民俗博物館学術情報リポジトリにて公開)の各記事の閲覧数を確認し、成果物自体の認知度が低いことを指摘し、各記事の読者層や使われ方を推察した。そして、共同研究の主たる研究対象であった奈良町陰陽町の暦師兼陰陽師吉川家旧蔵の資料群(国立歴史民俗博物館蔵「吉川家文書」)の研究課題を、報告者の関心に即して考え、次の3点を指摘した。①吉川家が求めた「知」と檀家や地域民衆の日常生活の関係を、吉川家文書と奈良県内の地域史料を併せて検討する。②吉川家文書に見られる「神道」文言や神道に関係しそうな内容を、神道・神道史研究の成果を踏まえて分析する。③吉川家文書のうち、あまり研究されていない近代の史料を分析する。
後半では、報告者の地元である千葉県船橋市および千葉市、および専門分野である日本近世史・地域史と「陰陽道史」の接点を探った。そして、千葉市域の史料から、①文政年間に、下総国千葉郡辺田村の百姓が、占考・祈祷・「紺屋手間」をして生計を立てており、領主側から、「無免許」での帯刀および占考と祈祷が「陰陽師之真似」と見做されたこと、②同国同郡馬加村の神職が天保年間、検見川上宿の神職が安政年間に、土御門家江戸役所から占考に係る「定」を発給されていることを紹介した。また、船橋市域の史料から、③印旛県第一大区四小区の戸長頭取が、明治5年(1872)11月に、県から太陽暦採用に係る通達を受けてから間もなく、印旛県令に、区内の人々がこれ以上混乱しないで済むように、門松・人日・新暦正月の休暇(休日)の取り計らい方を確認していたこと、印旛県から各町村に大祓・貸借金返済期限・地券明細取調(地価取決めのため)期限についての通達が立て続けに届けられていたことを紹介した。
報告のまとめでは、次の4点を指摘した。「陰陽道史」の調査・研究成果を読み、使ってもらうためには、①情報発信、②史料の使い方を伝える方法・媒体を考える、③「陰陽道史」研究者が関連する史料や記述を見出す、といったことが必要である。④関東地方の市民の関心を惹くためには、史料に見える「陰陽師」文言に注目し、領主・当事者・民衆の共通性と違いに留意しつつ、当時の「陰陽師」認識を考察することが効果的ではないか。
■梅田千尋(史料紹介)「若狭名田庄の土御門家関連史料について
福井県おおい町では、名田庄の土御門家関係資料を含む「谷川家文書」を町指定文化財とし、2022年度・2024年に資料集『土御門家陰陽道の歴史~名田庄・納田終の地にて~』正続2巻を刊行した。本報告では、本資料集刊行に関わった立場から、第二集の掲載史料のうち、戦国期の具注暦や陰陽道祭祀に関する史料を紹介した。なかでも、天正六・七年の具注暦断簡や「大唐陰陽書」写本について、賀茂氏断絶後に暦道を担うことになった時期の土御門家がおかれた状況に即して読み解き、研究文脈上に位置付ける試みを行った。また、都状・祭文など陰陽道祭祀関係史料についても、若杉家文書など他の資料群と比較し、その特徴について考察した。その結果、名田庄在住時代以前に京都で作成された祭文やその写本が伝来していること、また、これらの祭祀史料は名田庄において守護若狭武田氏を含む周辺の武家に対する陰陽道祭祀の際に活用された可能性があることなどを指摘した。
2025年5月19日月曜日
2025年5月17日土曜日
時間学公開シンポジウム「陰陽道と時間」のお知らせ(長崎市)
【ご案内】時間学公開学術シンポジウム「陰陽道と時間」が開催されます。
日時:2025年6月14日(土)14時00分~17時10分(開場:13時30分)
会場:活水女子大学東山手キャンパス411教室(長崎県長崎市)
【概要】時間学公開シンポジウム2025 陰陽道と時間
講師:細井浩志 (活水女子大学国際文化学部・教授、時間学研究所・客員教授)「はじめに――陰陽道研究と時間学との関係」
赤澤春彦(摂南大学国際学部・教授) 「古代中世の占いと時刻」
梅田千尋(京都女子大学文学部・教授) 「江戸時代の暦と陰陽師―年卦の配布と受容から」
小池淳一(国立歴史民俗博物館・教授) 「トシガミから歳徳神へ―正月行事をめぐって―」
林淳(東洋大学・客員研究員) 「コメント」
定員:300人
対象:一般および研究者
参加無料・申し込み不要
主催:山口大学時間学研究所
共催:日本時間学会、活水女子大学
後援:長崎市教育委員会
http://www.rits.yamaguchi-u.ac.jp/?p=4306
・・・・・
問合せ先
山口大学時間学研究所
TEL:083-933-5848
E-mail:jikann(@)yamaguchi-u.ac.jp
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