2026年7月25日土曜日

第21回 陰陽道史研究の会 記録

日時:2026年4月25日(土)11:00~17:30 
会場:中京大学 名古屋キャンパス 0号館 7階 702号室
【要旨】
■濱名亜実「書物・出版文化による呪術知識の普及と展開─「調法記」の比較から」
 本研究は、近世の『呪詛調法記』などのまじない本4冊を対象に、中世の民間信仰資料との比較を交えながら、呪術知識が庶民へ普及する過程とその変遷を検討した。
 分析の結果、近世において、中世の呪術要素(人形や呪字など)が簡略化されて継承、携行しやすいよう書物が小型化していたこと、また時代が下るにつれて食品の貯蔵法といった「家事技術」の項目が激増し内容の世俗化が進んだことが明らかになった。その一方で、後代のまじない本では道教要素の流入や序文の真名(漢文)化による格調の高さが見られ、内容が生活知識に近づきつつも独自の「宗教性」が維持され続けたという特異な構造を指摘できる。今後は、地方の民間宗教者の家系で実際に写本が活用されていた事例なども踏まえ、これら調法記の具体的な受容層についてさらなる検討を進める方針である。(濱名亜実)

■川部佳奈「平安後期における「本所」の認識と邸宅券文について」
方違をはじめとした平安期の陰陽道禁忌がどのような論理に基づいたかを検討するうえで、禁忌の基点として重要な意味を持つのが「本所」という邸宅認識である。既往研究では、本所は大将軍・王相神の禁忌に関わるものとして、平安後期以降の陰陽道書をもとにした禁忌の解釈が行われてきた。
しかし、いずれも議論の前提となる本所そのものの定義が曖昧なことで、本所に関わる方違等の解釈にも混乱が生じている。本発表では、邸宅券文の授受と本所の設定に着目し、陰陽道禁忌に対応するうえで、本所という邸宅概念が当時の貴族達にどのように認識されていたのかについて、日記など古記録の記述からの検討を加えて論じる。(川部佳奈)

■山下克明「簠簋研究の新視点-近刊『『簠簋内伝金烏玉兎集』の研究:その成立と中世仮名暦の展開』の論点と課題-」
中世の「陰陽道」書として知られる『簠簋内伝金烏玉兎集』(以下簠簋と略称)とは如何なる書であったのか。賀茂・安倍氏ら官人陰陽師の知識を主体とした古代以来の陰陽道・暦道とは何が異なるか。筆者は2025年末に簠簋研究書を刊行したのでその概要を報告した。
全四章のうち、第一章では簠簋の成立は14世紀後半頃とし、その成立背景には天台顕密仏教の仏神世界観と暦法観があり、編者は祇園社僧を含む天台顕密僧とみられること。第二章では簠簋の書誌的検討を行い、古写本三系統のうちⅠ類を古態本と認定し、これをもとに資料篇でⅠ類天理図書館楊憲本の全文翻刻を行い、簠簋研究の基盤を整えた。第三章では簠簋成立の背景に中世仮名暦の社会的普及があり、簠簋は民衆への仏教教化の意図を込めて成立した暦注書であることを指摘し、第四章では、簠簋と中世仮名暦の社会的台頭を受け旧勢力化した室町期暦道賀茂氏の対抗策として、賀茂在方が『暦林問答集』編纂し、また自らを本所とする摺暦座で京仮名暦(のちの大経師暦)を発行したことを指摘して、これらをもって簠簋の存在意義と社会的影響の実態を考究した。(山下克明)

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